K-50



7days book cover challenge


 
加 藤 良 一  2020年6月4日


 5月、7days book cover challengeと称して、「読書文化の普及に貢献するためのチャレンジ。好きな本の表紙を11冊、7日間投稿」そして誰かに引き継ぐ、というチェーンカキコがfacebookで流行しました。読書離れが進んだ昨今、コロナ禍による外出自粛規制でもあるし、たまには家にいて本でも手にとってみましょうということに違いない。誰が始めたのでしょうか。出版社かそれとも作家か(‘;’)
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月になった現在でもこのチャレンジは続いています。これで果たして読書文化の普及に繋がるのかどうか心もとないですが、本が対象ならとくに害もないからいいでしょう。ということで1週間続けたものをまとめてみました。このチャレンジ、今では対象を楽譜やレコード・CDにしたものまで広がっています。 ルールらしいものは次のようで、まあねずみ講のようなものです。
 @好きな本を11冊、表紙だけを7日間連続してfacebookにアップする
 Aアップの都度、facebookの友だちを一人指名し、チャレンジに参加してもらう

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5/8 第一日目 『シュンポシオン』 倉橋由美子1985

 倉橋由美子は『パルタイ』『スミヤキストQの冒険』『反悲劇』などの作品があるが、私のホームページの名前に使わせて頂いた『シュンポシオン』を外すことはできない。

 ある別荘に変った顔ぶれが集まり、話しが盛り上がったところで、
 「政治の話はよしませう。シュンポシオンにふさはしくない」
 「シュンポシオンといふことなら、みなさんにもギリシア人に倣って御自由に寝そべっていただいてはいかがかしら」と桂子さんが言った。

 「私にはあの籐椅子を出してもらはう」「シュンポシオンとはいい言葉ですね」と明さんが言った。「シンポジウムといふやつはなるべく敬遠したいんですが、一緒に酒を酌んで談笑するほうのシュンポシオンなら、毎日がシュンポシオンでもいい」

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5/9 第二日目 『科学嫌いが日本を滅ぼす』 竹内 薫2011

 サブタイトルは<「ネイチャー」「サイエンス」に何を学ぶか
◇失われた科学日本のお寒い科学事情
 日本人はいつの間にか科学技術への関心を失ってしまった。モノ作り日本の土台が揺らいでいる。その先に待ち受けているのは国力の低下である。
 今、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の発言が実に歯切れが悪い。それは政治の場を通じて公表されることで内容が捻じ曲げられてしまうからだろう。彼らが自分の専門分野の学会などであのような発言をするとは思えない。そこは科学の世界であり、事実しか意味がないからである。科学に強いあるいはその存在に敬意を払う政治家は残念ながらほんの一握りしかいないようだ。今回のコロナ禍では、イヤというほど科学が政治に悪用され、お飾りになっていることが分かった。

 追加 この本ではDNAの二重らせんの話題も取り上げています。貧乏学生時代、異常に分厚い原著“The Double Helix”を四苦八苦して読んだ記憶がまざまざと思い出されます。異常に分厚かったのは、実は(ここだけの話ですが)質の悪い紙を使った海賊版だったからです。半世紀前は海賊版がまかり取っていましたから。今では考えられないことでしょう。


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5/10 第三日目 『吉田秀和全集』 吉田秀和1999

 吉田秀和さんは音楽評論家だが、音楽以外にも文明批評、美術批評、文芸批評と幅広い分野に高い見識をもって取り組んだ方である。書き残されたものは膨大である。この全集最終巻はエッセーを集めたもの。
 第一部マネ頌など画家について6篇、二部中原中也のことなど人物について10篇、そのほか全部で八部まで魅力的なエッセーが並んでいる。
 17歳の時に知り合った中原中也との親交について書いたものは、非常に評価の高いエッセーである。

 追加。
『レコードのモーツアルト』 吉田秀和1980
 これは中公文庫だが、忘れられない一冊となっている。もういつのことだったか思い出せないくらい昔のことだが、たまたま上野駅コンコースを歩いていたらと、向こうから黒い長めのコートを着た背の高い紳士がやってきた。その風貌を見た瞬間、その人が吉田さんだとすぐに気づいた。

                   

 いつも電車で読む本を何かしらカバンにいれていたが、その時は、なんと吉田さんの『レコードのモーツアルト』が入っていたのだ。挨拶もそこそこに本を取り出し、サインをお願いしたところ、快く引き受けて頂いた。「あなた、お名前はなんていうの?」と丁寧に聞かれた。そしてぼくの名前とともにサッとサインをして去って行かれた。当時は水戸芸術館の館長をやられていたから、ちょうど水戸へ向かうところだったようだ。
 たったこれだけの出来事であったが、私淑しているといっても過言でなかった方だけにいまでも深く心に残っている。文庫本などでなく、なぜ単行本を持っていなかったのかと悔やまれたがまさに後の祭りだった。

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5/11 第四日目 『漱石とグールド』 横田庄一郎編(1999)

 サブタイトル<8人の「草枕」協奏曲The Three-Cornerd World Concerto
 多方面の8人が執筆する漱石・グールド頌である。

  ピアニストのグレン・グールドは漱石の『草枕』をこよなく愛し、死の間際まで手放さなかった。アラン・タ−ニーによって英訳された“Three-Cornerd world”ではあったが。
 三角の世界とは、『草枕』の一節「四角な世界から常識と名のつく、一角を摩滅して、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでよかろう」という漱石の文章からとったもの。

 以前、関連した本のレビューを書いたものがあります↓。ご参考までに http://www.max.hi-ho.ne.jp/rkato/Document/music/m6sousekitoguld.htm

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5/12 第五日目 『人は何のために死ぬべきか』 奥山 篤信(2014)

 サブタイトル<キリスト教から読み解く死生観
 この本は、FB「愉快の会」の仲間Hiromi Koyama Fujiwaraさんから頂きました。著者は、京大工学部東大経済学部上智大学大学院神学研究科で修士号取得という一風変わった経歴の持ち主。映画評論・文明評論家。平河総合戦略研究所代表理事。
 「当然、日本人の『よく死ぬこと』とは自分のためではなく、友人、同胞、お家そして国のために死ぬことである。それ故、日本人は、ヨハネ福音書の言葉を自然に実践してきた民族であるといえるのだ」との西村眞悟氏の長文の推薦の言葉が冒頭におかれている。

 著者は大学を二つも出たあとに神学を学んでいる。「日本人である私は、欧米のいう『神の正義』に傲慢な偽善と違和感を感じている。したがって、シアトルの抗議文(北米インディアンが侵略者の白人に対して送った抗議文)を読んで、私は、この文章こそ、インディアンとわれわれ日本人が共通の遠い祖先の崇高な魂を受け継いでいる証でもあると実感した」という言葉は重い。

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5/13 第六日目 『葉隠入門』 三島由紀夫 (1963)

 三島由紀夫は、「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」で有名な山本常朝(じょうちょう)の『葉隠』を常に身辺に置き、折に触れ繰り返し読んだ。
 一方、奥山篤信氏が『人は何のために死ぬべきか』において、広く知られた新渡戸稲造の『武士道』はあくまで近代思想の産物であり、本来の武士の精神とはなんら関係がない、あれは明治武士道だ、武士道は第一義に戦闘者の思想である、との指摘は三島と同根であろう。明治武士道が説く忠君愛国道徳は、武士道の名を借りた近代思想だという。

 三島は、「わたしが戦争中から『葉隠』に感じていたものは、かえってその時代になってありありとほんとうの意味を示しはじめた。これは自由を説いた書物なのである。これは情熱を説いた書物なのである。『葉隠』をよく読んだことのない人は、いまだに、この本に忌まわしいファナティックなイメージを持っている。しかし、「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」というその一句自体が、この本全体を象徴する逆説なのである。わたしはそこに、この本から生きる力を与えられる最大の理由を見出した」

 葉隠』は、もともと『葉隠聞書』と名付けられていたように、座談の筆記であり、四十八の精髄からなっている。三島はこれを大きく行動哲学、恋愛哲学、生きた哲学の三つの特色をもった書物としている。

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5/14 第七日目 『音楽は体力です』 加藤良一 (2001)

 この本の著者は何を隠そうこの私です。何も知らずに合唱を始めて十年ほど経った頃、あれこれ考えるうちにひょんなことから本を出してしまいました。
 年取って合唱を始めた山形の義母が『第九』にチャレンジするなかで、日々の練習がまるで運動選手のようだったという話を聞き、たしかにそうだよね、ふだんは使わないような筋肉を使って思い切り歌うんだから、健康じゃないとできないねと同感したものです。自分の日ごろのことも考え合わせると、やはり音楽にも体力が欠かせないと知り、『音楽は体力です』となった次第です。

(義理堅い)合唱仲間に少しはお買い上げ頂きましたが、それ以上さして売れるはずもなく、第二刷どまりでみごと絶版となりました(‘;’)
 もう入手不能の珍本ですので、私のホームページにプロフィール代わりに全編掲載してあります。お時間のあ(り余)る方は、一度覗いてみてください。(プロは書こうとも思わない)素人にしか書けない合唱風景がそこにはあります。

 



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